売買ルールが知れ渡ると、有効性は失われる?

■売買ルールは繊細なもの?

ある売買ルールを使う人が増えると、みんなが同じタイミングで売買することで、そのルールの有効性が失われるという考え方があります。
売買ルールに関する考え方は様々で、どちらが正しいとも言えないのですが、それぞれの主張からどういった部分が当てはまるのかを見ていきましょう。

■有効性が損なわれる部分とは

多くの投資家が同じ銘柄へ同じ価格・同じタイミングで買い注文を行うことで、買い板にある株数が売り板にある株数に対して大きく上回ってしまい、成行や逆指値注文では株価がジャンプして高い価格で約定してしまう可能性が高くなります。

例えば「3908コラボス」という銘柄があり、2016/6/7の出来高は28,900株となっています。

3909koraboss_volume

この「3908コラボス」に対して、2016/6/7寄付きに100株の成行買いを仕掛けるとします。

このときその売買ルールを使う人間が自分1人であれば、マーケットインパクトもほぼ無く3,990円近辺で約定すると思われます。

ただ同様に100株の買い注文を行う投資家が、他に100人いた場合はどうでしょうか。
「成行/指値/逆指値」の注文方法に分けて、それぞれどんな影響があるかを見ていきましょう。

□成行注文の場合

成行注文では、自分の100株の成行買い注文以外に、追加で10,000株の成行買い注文が発生することになります。
「3908コラボス」は6/7の出来高が28,900株しかなかったため、追加で10,000株の成行買い注文が発生した場合、寄付き価格は3,990円を大きく上回った価格で約定する可能性が高くなります。

□指値注文の場合

指値注文では、自分の100株の指値買い注文以外に、追加で10,000株の指値買い注文が大量に発生することになります。
買い板では指値価格の位置にある注文株数だけが膨れ上がった状態になる一方、売り板の注文株数は増えないため、買い注文は約定せずに未約定になる可能性が高くなります。

□逆指値注文の場合

逆指値注文では、自分の100株の逆指値買い注文以外に、追加で10,000株の逆指値買い注文が発生することになります。
「3908コラボス」は6/7に出来高が28,900株しかなかったため、場中の出来高はさらに少なかったことが考えられます。そんな状態で、株価が逆指値を発動するトリガー価格に到達した途端、成行あるいは指値注文が殺到することになります。

逆指値発動後に成行としていた注文は、スリッページが発生して約定価格は逆指値を発動するトリガー価格を大きく上回る可能性があり、建て値は不利な価格の方向へ動きます。

一方、逆指値発動後に指値としていた注文は、勢い良く上昇した株価は指値価格をすり抜けて上昇し、注文が成立せずに未約定となる可能性が高くなります。

上記の現象は、大量の資金を持つ投資家が入ってきた場合、その傾向がさらに強まります。
そして仕掛けや手仕舞い注文で売り買いのタイミングを早くしたり、価格位置をずらしたりする投資家が現れてくることで、売買ルールの再現性が薄れてしまう可能性があります。

■有効性が損なわれず、プラスに働く要素はある?

自分と同じ売買ルールを使う投資家が増えれば、そのトレンドは明確になるため、物理的にプラスに働く要素と言えます。そして上昇している銘柄に注目して後から買いを仕掛けてくる投資家が増えた場合、中長期的には上昇トレンドは強化されます。

ただし、ここが重要なポイントですが、自分が買った後に株価がさらに上昇するには、他の投資家が自分が購入した価格よりも高い価格で後から同じ株を購入してくれる場合に限ります。
※このとき後から購入する投資家は、同一銘柄を同じ価格・同じタイミングで購入するケースとは違うため、売買ルールのコンセプト自体は似ていますが、同じ売買ルールでトレードしているわけでありません。

中長期保有を目的とした投資の場合、後から買いを入れてくる投資家が増えることでプラスに働く要素はあると思われます。
ただ保有期間が数日と短いようなシステムトレードの場合は、上昇する銘柄に注目した投資家が後から買い注文を入れてくるプラス要素と、多くの投資家が同じ注文を行うことで売り板と買い板の需給が崩れて価格が不利な方向に大きく動いてしまうマイナス要素がそれぞれ影響します。

売買ルールの有効性は、この2つの影響度合いによって有効性が損なわれているかどうかを判定していると考えられます。

例えば、2013年前半のアベノミクス相場の上昇局面では、売買ルールが知れ渡って約定価格が不利な方向に動いたとしても、その後買いが買いを呼ぶ勢いが強く利益が十分に残るようなケースが多い時期だったと言えます。

■まとめ

特定の売買ルールが知れ渡ることで、売りと買いの需給が一時的に過去とは大きく異なってしまうケースは出てきます。
ただ売買ルールの有効性が損なわれたかどうかは証明するのが難しく、あくまで相場状況や銘柄の違いによって有効性が損なわれる場合と損なわれない場合があるという結論に落ち着きます。
(例えば、1日の売買代金が10億円以上あるような大型株の場合、個人投資家の同一注文が集中する影響よりも、機関投資家の大口注文による影響の方が大きかったりします)

こうした不確実性はトレードに限らず、人と人とのやり取りである競技スポーツ(サッカーや野球)などにも広く当てはまります。
そして不確実で断言できない要素があるからこそ、色々な投資家の思惑(売り注文と買い注文)がぶつかって、株式市場は成り立っていると言えるでしょう。

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